【メルボルン 12月6日】
本日、メルボルンオリンピックの水球競技で、ハンガリー代表とソ連代表が対戦した試合が、両国選手の衝突により “流血戦” と呼ばれる事態へ発展した。ソ連によるハンガリー動乱鎮圧の余波がそのまま競技に持ち込まれた形で、観客席・報道陣を巻き込む騒然とした空気に包まれた。
試合前から異様な緊張が漂っていた。10月末のハンガリー動乱以降、多くのハンガリー選手は国の混乱と家族の安否に不安を抱える中で五輪に出場しており、一方でソ連代表は沈黙を貫きつつも厳しい視線を向けられていた。プールサイドには警備員が通常より多く配置され、観客席ではハンガリー国旗が揺れ、ソ連への非難の声も聞こえた。
試合が始まると、競技そのものは水球とは思えないほど激しい肉弾戦となった。水中での蹴り、つかみ合い、ヘッドロックが続き、レフェリーの笛が何度も鳴らされたが、選手の感情は抑えきれなかった。
後半、最も衝撃的な場面が訪れる。ハンガリーのスター選手エルヴィン・ザードル選手がソ連選手と接触した際、顔面を強打され眉付近から血が流れ、プールの水が赤く染まった。観客席からは怒号と悲鳴が上がり、ハンガリー応援団が立ち上がって拳を振り上げ、会場は一時混乱寸前となった。
試合は安全確保のため途中で打ち切られ、最終スコアは 4–0 でハンガリーの勝利が宣告された。その瞬間、観客席は大歓声に包まれ、ハンガリー選手たちは拳を高く掲げて応えた。ザードル選手は血の拭われた顔で「これは競技ではなく、祖国の誇りを守る戦いだった」と語り、仲間たちは彼を肩で支えながら退場した。
大会関係者は「五輪精神から外れた激しい試合となったことは遺憾」としつつも、政治的緊張が背景にあることを認めた。国際オリンピック委員会は選手保護のため、今後の試合運営に強化措置を検討するとしている。
今日の“メルボルンの流血戦”は、冷戦下の国際政治がスポーツの舞台にまで深く影を落とした象徴的な事件と言える。
勝利したハンガリーは決勝へ進出し、混乱の中でも世界に誇る強さを示した。
— RekisyNews スポーツ面 【1956年】
