植村直己、マッキンリー単独初登頂 五大陸最高峰を制覇

【アラスカ・マッキンリー 8月26日】

本日、登山家の植村直己氏が北米大陸最高峰マッキンリー(6,194m)に単独で登頂した。強風と低温で足止めが続いた高所キャンプを夜明けに発ち、稜線の雪庇とアイスバーンを慎重に越えて山頂標へ。ベースからの行動は装備と食料を極限まで切り詰めた軽量・短期の作戦で、途中のビバークでも体力と熱量の管理を崩さなかったという。

単独行はロープを結ぶ相手も気象判断を分け合う相棒もいない。ホワイトアウトの兆しに一度は退き、好天の“窓”に合わせて再アタックに転じた冷静さが勝負を分けた。クレバス帯の通過や急斜面のトラバースではピッケルワークとアイゼンの置き方を一歩ずつ積み重ね、転倒の芽を摘み続けた。

今回の成功で、氏はアジア=エベレスト、欧州=エルブルス、アフリカ=キリマンジャロ、南米=アコンカグアに続き、世界で初めて“五大陸最高峰”を踏破。大量装備・長期隊の時代に対して、機動的で自立した登山術が有効であることを改めて示した。現地関係者は「独力で標高と孤独を越えた」と称え、若い登山者からは新しい目標としての“単独・少人数”に関心が集まる。

山頂からの無線で、植村氏は「山は逃げない。だからこそ諦めなかった」と短く語った。極地や長距離縦走への構想も温めているといい、犬ぞり・氷原行の技術と今回の高所経験を重ね合わせた次の企てが早くも話題だ。北半球の夏空の下、一人の登山者が描いた細い軌跡は、世界の山旅の地図に新しい線を加えた。

— RekisyNews スポーツ・冒険面 【1970年】

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