【モスクワ 12月5日】
本日、モスクワ中心部にそびえていたロシア最大級の正教会建築 救世主ハリストス大聖堂 が、ソ連共産党政治局の指令により爆破解体された。帝政期の象徴でもあった同大聖堂が失われたことは、国内外に大きな衝撃を与えている。
この大聖堂は、ナポレオン撃退を記念して19世紀に建設された歴史的建造物で、高さは百メートルを超え、黄金の大円蓋がモスクワの空を明るく照らしてきた。しかし、共産党政権は宗教を“旧体制の遺物”とみなし、近年は教会財産の没収や聖職者の追放が進んでいた。
今朝早くから、現場には軍と治安部隊が展開し、周辺地域は封鎖された。集まった作業員が導火線を準備する様子を、市民は遠巻きに見守るしかなかった。正午前、複数箇所に仕掛けられた爆薬が一斉に点火され、巨大な白い聖堂は轟音とともに崩れ落ちた。 黒煙が空高く舞い、崩壊の地響きが周辺に鳴り響くと、人々からは悲鳴とため息が入り交じった。
ある高齢の市民は涙を浮かべながら「ここは私の人生の中心だった。祝福も、別れも、すべてこの教会と共にあった」と語り、若い労働者の一人は「国の未来のためだと言われても、胸が痛む」と打ち明けた。一方で、党関係者は「宗教的象徴の除去は社会主義建設の一環である」と説明し、新たな建設計画が進むことを示唆した。
政治局はこの跡地に、労働者の力と社会主義の偉大さを象徴する巨大施設の建設を計画しており、“ソビエト宮殿”と呼ばれる構想がすでに内々に伝えられている。今日の解体はその第一歩にあたるとみられる。
帝政ロシアの精神的象徴であった大聖堂の消滅は、社会主義国家への転換を強く印象づける出来事となった。
崩れた鐘楼の残骸の前に立ち尽くす人々の姿は、激動の時代を象徴する光景として記憶されるだろう。
— RekisyNews 国際面 【1931年】
