【イングランド・プリマス 8月26日】
本日、海軍測量士のジェームズ・クック中尉が指揮するエンデバー号が、皇家協会と海軍本部の合同計画の下、プリマスを出航した。第一の任務は来年のタヒチでの金星日面経過(トランジット)の観測で、天文学者チャールズ・グリーンが観測を統括する。船上には博物学者ジョゼフ・バンクスとダニエル・ソランダー、写生を担う画家らも同乗し、自然史標本と記録の収集にあたる。
艦はかつての石炭運搬船を改装した堅牢なバークで、浅瀬や河口にも入りやすい浅い喫水が特長。甲板下には食糧と淡水、標本瓶や植物乾燥用の紙、測深器具、象限儀や天体望遠鏡が積まれた。航路は大西洋を南下してマデイラ、リオ・デ・ジャネイロ方面で補給後、ホーン岬を回って太平洋へ向かう計画だ。
タヒチ到着後は、封緘命令の開封により南太平洋の測量・記図へ移る。未知の海域で島嶼や海岸線を詳細に写し取り、月距離法などで経度を定め、航海者に資する海図を整えるのが狙いという。必要があれば友好的に通商と補給の関係を築き、王権の名において標識を設ける手順も示されている。
埠頭には見送りの群衆が集まり、白帆が外海へ滑り出すと歓声と帽振れが起きた。科学と航海術、そして帝国の利害が一隻に乗り合うこの遠征は、海の空白を埋める壮大な試みだ。風向きと疫病、嵐と礁——数々の危険を越え、どのような地図が戻るのか。期待と不安を等分に積んだ船は、夏の水平線の向こうへ消えた。
— RekisyNews 科学・探検面 【1768年】