【ジュネーヴ 8月20日】
本日、諸国代表が戦地の傷病者救護を規定する条約に調印した。条文は敵味方の別なく傷病者を保護し、医師・看護要員、野戦病院、救護車を中立として尊重することを明記。識別標章として白地に赤十字を掲げ、戦場での即時の識別と保護を図る。民間救護団体の活動も認められ、負傷者名簿の交換、家族への通知、衛生物資の輸送路確保など、実務連携の枠組みが整った。
会議関係者は「規範は出発点であり、現場への徹底こそ肝要」と強調する。砲煙のただ中に最小限の人道を根づかせるには、兵卒から指揮官までの教育と監督が鍵だ。違反の報告と是正の手続き、捕虜や行方不明者の照会を担う常設機関の整備も検討され、戦地での通信経路の確保が課題に挙がる。
街の掲示板には条約の抜粋が張り出され、教会や市庁舎では募金の呼びかけが始まった。包帯と薬瓶、担架の使い方を教える講習会も企画され、救護の技法が民間へと広がりつつある。医学生は前線派遣の志願を申し出、薬種商は消毒液の増産を準備。学校では子どもたちに標章の意味が教えられ、赤い印の下で誰もが助け合う理念が語られた。
それでも、条約が紙の上の約束で終わる危険は残る。最前線の兵にまでルールを浸透させる手段、破られた際の通報と調査の速度、報復の抑制―課題は多い。だが今日の署名は、戦争の只中に「触れてはならぬ領域」を線引きした初めての試みだ。人道の灯が消えぬよう、各国の誠意が問われる。
— RekisyNews 国際・人道面 【1864年】