【東京 8月17日】
本日、大蔵省は初めて千円額面の紙幣を発行した。戦局下から続く急激な物価高に対応し、高額取引を円滑に行うための措置とされる。新紙幣の肖像には古代の英雄・日本武尊が描かれており、荘厳な意匠が国民の注目を集めた。
従来、国内で流通していた最高額紙幣は百円券であったが、終戦を目前にした混乱と統制経済のもと、物資不足と貨幣価値の下落が深刻化。市場では米一升が数十円を超えるなど、日々値が上がり続ける状況に「百円券では持ち歩く量が膨大になる」との声が強まっていた。
東京の金融機関では、開店と同時に千円券を手にしようとする人々が列をなし、銀行員は「現金のやり取りが格段に楽になる」と語った。商人の一人は「帳簿に桁が増えるのは複雑だが、これでまとまった取引がしやすくなる」と安堵の表情を見せた。
一方で、市井の人々からは不安の声も聞かれる。「千円など庶民には縁遠い」「かえって物価の上昇を加速させるのでは」との懸念も根強い。労働者の一人は「賃金が据え置きのままでは、この紙幣はただの遠い存在だ」と語った。
専門家は「高額紙幣の発行は一時の便宜にすぎず、経済安定策を伴わなければ貨幣価値の下落を止めることは難しい」と警鐘を鳴らしている。
戦争の終わりとともに迎えたこの大転換は、国民の生活と経済の行方を映す鏡となりそうだ。
— RekisyNews 経済・社会面 【1945年】