【東京・下谷 3月14日】
本日、下谷上根岸の正岡子規氏の居宅「子規庵」において、新たな短歌の会が産声を上げた。かねてより『日本』紙上などで、古びた和歌の因習を打破し、万葉の古風を復活させるべきだと説いてきた子規氏が、ついにその理論を実践するための場を設けたものである。
本日の第一回会合には、香取秀真氏や岡麓氏ら、子規氏の志に共鳴する数名の若き歌人が集った。重い脊椎カリエスを患い、病床に身を横たえる子規氏を中心に、参加者たちはこれまでのような理屈や言葉遊びに頼った歌作りを退け、目の前の自然や事象をありのままに写し取る「写生」の筆を振るった。
子規氏は昨年発表した『歌よみに与ふる書』の中で、「紀貫之は下手な歌よみにて候」と古今集以来の伝統を痛烈に批判し、文壇に大きな衝撃を与えた。本日始動したこの「根岸短歌会(仮称)」は、その過激ともいえる革新論を、具体的な作品群によって証明するための「前線基地」となる。
現在、短歌界では与謝野鉄幹氏率いる「新詩社」の浪漫的な作風が勢いを増しているが、対する子規氏の「根岸派」は、写生による「真実」を追求する姿勢で対抗する構えだ。病床の痩身から放たれる熱気が、根岸の静かな夜に新たな詩の息吹を吹き込んでいる。
— RekisyNews 文芸面 【1899年】
