インディラ、上野で脱走 ── ベテラン飼育員の一声で無事収容

【東京 3月14日】

本日午前9時過ぎ、上野動物園において、戦後「平和の使者」としてインドから贈られたアジアゾウのインディラ(推定20歳)が、運動場の囲いを越えて脱走する騒ぎがあった。春休みを控えた園内は一時騒然となったが、駆けつけた元飼育員による必死の説得により、約1時間後に無事収容された。

事故は朝の清掃作業中に発生した。インディラは何らかの拍子に興奮し、高さ約1メートル、幅30センチのコンクリート製の防護壁を前脚で押し潰して突破。そのまま園内の遊歩道へと進み、植え込みをなぎ倒しながら歩き回った。通報を受けた警視庁や消防が出動し、ライフルを持った警官隊が包囲する緊迫した状況となった。

この危機を救ったのは、病気療養のため休職中だったベテラン飼育員の塙吉次氏であった。自宅でラジオのニュースを聞き、タクシーを飛ばして私服姿で駆けつけた塙氏が「インディラ!」と鋭く呼びかけると、それまで暴れていた巨躯がピタリと動きを止めた。塙氏が優しく体に触れながら「さあ、お帰り」となだめると、インディラは大人しく同氏に従い、自らゾウ舎へと戻っていったという。

幸い、開園直後で入園者が少なかったこともあり、怪我人は出なかった。上野動物園の夏堀園長は「インディラと塙さんの20年にわたる強い絆が、最悪の事態を防いでくれた」と安堵の表情を見せた。インディラは1949年にインドのネルー首相から贈られて以来、多くの子供たちに愛されてきた。今回の「脱走劇」は、図らずも人間と動物の心の交流を再確認させる結末となった。

— RekisyNews 社会面 【1967年】

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