【鎌倉 3月9日】
本日午前、衆議院議員で時事新報社社長の武藤山治氏が、神奈川県鎌倉町(現・鎌倉市)の自宅近くで暴漢に襲撃された。武藤氏は至近距離から数発の銃弾を浴び、直ちに近隣の病院へ搬送されたが、意識不明の重体となっている。犯人はその場で自ら命を絶っており、社会に大きな衝撃が走っている。
武藤氏は鐘淵紡績の社長として「温情主義」を掲げ、日本の紡績業を世界一へと押し上げた実業界の重鎮である。近年は言論界に転じ、時事新報において政財界の癒着を鋭く批判。特に「帝人事件」に関連する汚職疑惑を厳しく追及していた最中での惨劇であった。
目撃者の証言によれば、犯人は武藤氏が自宅を出て歩き出したところを背後から襲ったという。遺留品などから、犯人は福島長作という名の失業者であることが判明した。犯行の動機については、個人的な怨恨か、あるいは武藤氏の追及を疎む勢力の教唆によるものか、当局による慎重な捜査が進められている。
「清廉な政治」と「公明正大な経済」を説き続けた武藤氏の受難に、政財界のみならず一般市民の間にも激しい憤りと悲しみが広がっている。帝人事件の真相究明に心血を注いでいた氏の不在は、日本の言論界にとって計り知れない損失となることは疑いようがない。
— RekisyNews 政治面 【1934年】
