【平城京 3月9日】
本日、平城京の宮中において、わが国の成り立ちを記した壮大な歴史書『古事記』全三巻の献上儀式が執り行われた。編纂の重責を担った太安万侶(おおのやすまろ)は、元明天皇の御前において、天武先帝の遺志を継ぎ、わが国に伝わる神話と歴史を成文化した同書を謹んで奉呈した。
『古事記』は、かつて天武天皇が「帝紀」や「本辞」の誤りを正し、後世に伝えるべく、類まれなる記憶力を持つ稗田阿礼(ひえだのあれ)に命じて語り継がせた伝承を基にしている。太安万侶は、阿礼が暗唱した膨大な物語を、音や訓を巧みに使い分ける独自の表記法によって克明に筆録した。
書は「上・中・下」の三巻構成となっており、上巻は天地開闢から神々の物語(神代)を、中・下巻は初代・神武天皇から推古天皇に至る歴代天皇の事績を記している。特に、音読の美しさを重視した歌謡も数多く収められており、単なる歴史記録を超えた、わが国独自の文学的価値も極めて高い。
「文字なき時代の声を、不変の文に留める」。この難事業が成し遂げられたことで、国家としての正統性が国内外に改めて示されたことになる。平城京の夜明けとともに誕生したこの聖典は、万世の後に至るまでわが国のアイデンティティを支える不朽の礎となるだろう。
— RekisyNews 文化面 【712年】
