【ワシントン 3月7日】
本日、アメリカ特許商標庁は、ボストン大学教授のアレクサンダー・グラハム・ベル氏(29)に対し、音声を電気的な波形に変えて送信する新たな通信技術、すなわち「電話」の特許を交付した。特許番号は第174,465号。これは、モールス信号による点と線の通信を、人間の「生の声」による直接対話へと進化させる、歴史的な一歩となる。
ベル氏が開発したこの装置は、送話器の中の薄い膜が声の振動を受けて震え、それを電流の変化に変えて電線へ送り、受話器側で再び振動に戻すという画期的な仕組みだ。ベル氏はもともと、聴覚障害者の教育に携わっていた経験から、音を視覚化、あるいは電気化する研究を続けており、助手のトーマス・ワトソン氏とともに、深夜まで実験を繰り返してきた。
しかし、今回の特許獲得には激しい「秒読みの争い」があった。実は本日、ベル氏が特許を申請したわずか数時間後、発明家のイライシャ・グレイ氏も同様の装置の特許出願書類を提出していたのだ。タッチの差でベル氏に軍配が上がった形だが、この「世紀の発見」を巡る法廷闘争は今後も続くと予想される。
現時点では、まだ明瞭な会話を長時間続けるには至っていないが、ベル氏は「いずれ、この電線が全米、そして世界中の家々を繋ぎ、人々が顔を合わせずとも語り合える時代が来る」と、その壮大な展望を語っている。
情報を「記号」として送る時代から、「感情」として届ける時代へ。本日交付された一枚の特許証は、人類の文明に計り知れない衝撃を与える通信革命の号砲となった。
— RekisyNews 科学・産業面 【1876年】
