【スイス・グリンデルワルト 3月4日】
日本人アルピニスト、長谷川恒男氏(30歳)が本日、ヨーロッパアルプス最大の難所として知られるアイガー北壁(標高3,970メートル)の冬季単独登頂に成功した。これにより長谷川氏は、マッターホルン、グランド・ジョラスに続く「欧州三大北壁」すべての冬季単独初登攀という、世界の登山史に燦然と輝く前人未到の金字塔を打ち立てた。
長谷川氏がアイガーの麓、足場となるアルピグレンを出発したのは先月2月24日のことだ。高さ1,800メートルに及ぶ垂直の壁は、マイナス20度を下回る極寒と、絶え間なく襲いかかる落石や雪崩に閉ざされていた。長谷川氏は「死の壁」と恐れられるこの難攻不落の岩壁に対し、たった一人で、10日間におよぶ壮絶な闘いを挑み続けた。
特に「白い蜘蛛」と呼ばれる最上部の氷壁付近では、猛烈な吹雪に見舞われ、一時は安否が危ぶまれる場面もあった。しかし、長谷川氏は卓越した技術と強靭な精神力でこれを克服。本日午後、ついに頂上に立ち、無線を通じて麓のサポート隊へ「登頂成功」の報を届けた。世界中の登山家たちが不可能と目していた「三大北壁の冬季単独完全制覇」を、一人の日本人が成し遂げた瞬間である。
今回の快挙を受け、地元スイスの山岳関係者からは「アルピニズムの歴史を塗り替える、超人的な偉業だ」と惜しみない賛辞が送られている。長谷川氏は、垂直の氷壁に命を懸けることで、人類の可能性がどこまで到達できるかを証明してみせた。この知らせは、春を待つ日本列島にも大きな勇気と感動を届けることになるだろう。
— RekisyNews スポーツ面 【1978年】
