最後の「江戸っ子」中山イサさん死去

【山梨 2月25日】

山梨県在住の中山イサさん(108歳)が本日、老衰のため逝去した。中山さんは慶応4年(1868年)の生まれ。今回の訃報により、公的な出生記録が確認できる「江戸時代生まれ」の日本人は、ついに全員がこの世を去ったことになる。明治、大正、昭和と激動の世紀を駆け抜けたひとつの時代が、今日、完全なる幕を閉じた。

中山さんの歩みは、まさに日本近代史そのものであった。徳川幕府が崩壊し、明治維新の荒波の中で幼少期を過ごした彼女は、第二次世界大戦による空襲や食糧難を乗り越え、戦後の高度経済成長までをその目に焼き付けてきた。100歳を超えてもなお、身の回りのことをこなし、家族に昔話を語る姿は、「生ける歴史」そのものであった。関係者によれば、彼女の長寿の秘訣は、規則正しい生活と、何事にも動じない穏やかな心にあったという。

現場となった中山さんの自宅周辺では、近隣住民らが集まり、郷土の誇りであった長寿者の死を悼んでいる。明治、大正、昭和の三代を生き抜いた彼女の死は、多くの日本人に「古き良き日本」との物理的な決別を実感させている。ある近隣住民は「中山さんの話を聞くと、教科書の中の出来事がすぐ目の前のことのように感じられた。あの優しい声がもう聞けないと思うと、本当に寂しい」と、涙ながらに語った。

武士の世に生まれ、科学技術が飛躍した昭和の今日まで。中山イサさんが繋いできた一世紀に及ぶ命の灯火は、今日、静かに未来へと託された。彼女の逝去をもって、江戸の息吹を直接知る者は誰もいなくなったが、その記憶は語り継がれる歴史の中に、盤石な礎として残り続けるだろう。

— RekisyNews 人報 【1977年】

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