夏目漱石、文学博士号を辞退 ーー 文部省の授与に「肩書きより作品」貫く

【東京 2月21日】

文部省が作家の夏目漱石に対し文学博士号を授与する意向であったところ、漱石は本日、これを辞退する旨を伝えた。関係者によれば、漱石は「学位は研究の証であり、作家の営みとは別」との考えを示し、栄誉を否定するのではなく、肩書きに頼らぬ姿勢を明確にしたという。官側の推薦は、近年の著作が広い読者を得たこと、言語表現の力量が高く評価されたことに由来すると見られるが、本人は終始静かな態度で受け取りを固辞したとされる。

背景として、漱石は東京帝国大学で英文学を修め、イギリス留学を経たのち、教員としての職務を離れ、朝日新聞社に迎えられて文筆に専念してきた。『吾輩は猫である』『坊っちゃん』『三四郎』、そして近作の『門』などが相次いで世に出て、近代の新しい小説の形を示したとの評価が高い。一方、国家が学問と文学を制度の枠に収めようとする気配もあり、今回の辞退は「文学は官の褒章で測れぬ」とする姿勢として波紋を呼んでいる。

夕刻、神田界隈の編集部には問い合わせが相次ぎ、机上の原稿用紙が風にめくれた。漱石は取材の求めに多くを語らず、茶碗の湯気越しにただ「仕事をしたい」と漏らしたとも伝えられる。学位をめぐる一件は、文壇と官界の距離、そして文学者の自立を考える材料として注目される。

— RekisyNews 文化面 【1911年】

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次