【東京 2月18日】
貴族院本会議で本日、菊池武夫議員(男爵)が、憲法学者でもある美濃部達吉議員の唱える「天皇機関説」を取り上げ、「国体に対する緩慢なる謀叛」として強く非難し、政府に断固たる措置を求めた。議場は一時ざわめき、傍聴席でも息をのむ者が多かった。寒気の残る永田町では、開会前から記者が玄関前に集まり、議事の行方をうかがっていた。
菊池氏は、美濃部の著作の記述を列挙し、天皇を国家の「機関」と呼ぶ立て方は国体観に背くとの趣旨を述べ、学説の撤回や出版物への対応を迫った。これに対し政府側は、直ちに結論を示すことは避けつつ、事実関係を精査し適切に対処する旨を述べたとされる。議員控室では、発言の影響を測る声が交錯し、散会後も廊下に人だかりが残った。
町では早くも号外を待つ者が出た。大学関係者の間には「学説の扱いが議会で裁かれる前例となる」と危ぶむ声があり、他方で「国体明徴のため当然」とする意見もある。美濃部氏は沈黙を守ったが、周囲には近く弁明の機会を求めるのではないかとの観測が流れている。
従来、同説は憲法体制を法的に説明する一つの枠組みとして通用してきた面があるだけに、論難が学説の枠を越えることへの懸念も強い。国体をめぐる論戦が、学説の当否が政治の攻防へ転じる兆しを見せる中、言論と統治の境目をめぐる緊張は、今後の議会運営にも影を落としそうだ。政府首脳は、混乱の拡大を避けるため、関係方面と足並みをそろえつつ対応を探る構えとみられる。だが一度火が付いた議論は、紙上と街頭へも波及する可能性がある。
— RekisyNews 政治面 【1935年】
