桃中軒雲右衛門、日本初のレコード吹き込み──浪花節の第一人者が歴史的録音に挑む

【東京 12月9日】

本日、浪花節の大看板として全国に名を知られる 桃中軒雲右衛門 が、東京市内の録音室で 日本初となる商業レコードの吹き込み を行った。これまで寄席や地方巡業で人気を博してきた語り芸が、ついに蓄音機レコードとして残されることとなり、芸能界・音楽界にとって画期的な一日となった。

録音は日本蓄音器商会の設備を用いて行われ、吹き込み室には技師や関係者が固唾をのんで見守る中、雲右衛門がゆっくりと針の前に立った。録音機材はまだ十分に発達しておらず、技師によれば「声の強弱や距離を細かく調整しなければ音が割れたり消えたりする」とのことで、数度の試し吹き込みの後、本番が始まった。

雲右衛門は代表演目の一節を語りはじめ、低く響く独特の節回しがホーン型録音機へ吸い込まれていった。技師は「肉声の迫力がそのまま盤に刻まれていく」と驚きを隠さず、立ち会った関係者も「浪花節が機械に残るとは信じがたい」と感嘆の声を上げた。

雲右衛門自身は、「これが日本中に届くのなら本望だ。寄席に来られぬ人にも聞いてもらえる」と語り、録音という新しい媒体に大きな意欲を見せた。収録後の盤は数週間後に販売される予定で、各地の蓄音器店ではすでに問い合わせが相次いでいるという。

浪花節はこれまで生の語りを聞くことが前提であったが、今回の記念すべき吹き込みにより、芸能の大衆化と録音文化の幕開け が期待されている。音楽関係者は「これを皮切りに、歌舞伎役者や音曲師の録音も続くだろう。日本の芸能が大きく変わる節目だ」と語った。

本日のレコーディングは、日本の録音史における第一歩であり、芸能の記録と普及に新たな時代をもたらす出来事となった。

— RekisyNews 文化面 【1911年】

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