【東京・上野 11月24日】
本日、東京上野の東京音楽学校(文部省直轄)において、明治以降の日本では初めてとなる本格的な洋楽歌劇『ファウスト』(グノー作曲)の全幕上演が行われた。西洋音楽の粋とも言えるオペラが、邦人の手によって舞台化されるのは極めて画期的であり、文明開化を象徴する文化的出来事として注目を集めている。
この日の演目『ファウスト』は、フランスの作曲家シャルル・グノーによる五幕構成の名作。ドイツの文豪ゲーテの悲劇詩に基づき、老学者ファウストと悪魔メフィストフェレスとの契約、純真なマルグリートとの悲恋を描いた重厚な物語である。
指揮と演出は、東京音楽学校の教官らが担い、出演者も声楽科の学生や卒業生を中心に構成。台詞や歌唱は原語(仏語)で行われ、一部に日本語の解説を交える形式が採用された。舞台装置や照明も工夫され、西洋の舞台芸術の様式に迫る演出が試みられた。
会場には教育関係者や音楽愛好家、外国人招待客らが詰めかけ、終演後には大きな拍手が送られた。ある観客は「ついに我が国にもオペラの時代が来た」と興奮気味に語った。
本上演は、東京音楽学校が明治国家の近代化政策の一環として導入した西洋音楽教育の成果を示すものであり、邦楽中心だった舞台芸術界に新たな地平を開いた。関係者は「今後は国産の歌劇の創作にも力を入れてゆきたい」としている。
音楽の国際化が、ついに日本の舞台にも音を響かせ始めた。今宵の『ファウスト』はその第一歩である。
— RekisyNews 文化面 【1894年】
