【東京・木挽町 11月21日】
本日、東京・木挽町に新たな劇場「歌舞伎座」が開場し、日本を代表する芝居町に大きな賑わいが広がった。明治維新以降、西洋文明の流入とともに都市景観が変化する中、伝統演劇の拠点を近代建築として整備する試みは、わが国では初めての大規模事業である。
初日の興行は午前から多くの観客で満員となり、場内には着物姿の婦人客や各地から訪れた芝居通の姿も目立つ。新劇場は木造ながら洋風意匠を取り入れた外観で、舞台奥行きや花道の幅も従来より広く設計されており、舞台転換を滑らかに行う工夫が随所に施されている。客席はおよそ二千人を収容し、照明設備や音響も改良され、明治の文明開化にふさわしい劇場として話題を呼んでいる。
この日の演目には、市川左團次ら人気役者が出演し、江戸以来の荒事や和事の型を披露。幕が上がると同時に場内は大きな拍手に包まれ、花道を通る役者に向けて掛け声が飛び交った。観客の一人は「伝統が生きながら新しい風も感じられる。ここが日本の芝居の中心になるだろう」と興奮気味に語った。
歌舞伎は文明開化の時代にたびたび批判を受けたが、今日の開場はその文化的価値が改めて認められた証でもある。歌舞伎座の誕生により、日本の伝統芸能は新たな舞台を得て、次代へと受け継がれていくことになりそうだ。
— RekisyNews 文化面 【1889年】
