【花巻 11月3日】
岩手県花巻の病床に伏せる詩人・童話作家の宮沢賢治氏(35)が、本日、黒革の手帳に一篇の詩を書き記したことが家族の話から明らかとなった。詩は題名こそないが、冒頭の一節「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」にちなみ、すでに周囲ではこの言葉で語られ始めている。
宮沢氏は農業指導者としても知られ、地元の農民との共同作業や教育活動に尽力してきたが、近年は結核の悪化により自宅療養を余儀なくされていた。本日の詩は、彼が病と向き合いながらも、人としてどう生きるべきかを静かに問いかける内容となっており、家族によれば手帳の巻末に墨書で綴られていたという。
詩は、困難にも負けず、貧しき人に寄り添い、欲を持たず、黙々と働き、誰からも感謝されずとも役に立つ存在であろうとする理想的な人物像を描いている。その言葉には、自らを律し、他者のために生きようとする宮沢氏の哲学が凝縮されている。
関係者によれば、この手帳は妹トシの死を悼んで使い始めたもので、表紙に「昭和六年十一月三日 雨」と記されている。詩の文体は平仮名を多用し、祈りにも似た穏やかな調子が特徴で、詩というよりも生き方の宣言に近いとも評されている。
文学界からは「未発表の傑作になる可能性が高い」との声も上がっており、将来的に作品集に収録されることも予想される。
苦しみのなかで生まれたこの詩が、やがて多くの人々の心に届く日が来るのかもしれない。
— RekisyNews 文化面 【1931年】
