黒澤明監督の新作『生きる』封切り──無名の役人が命の意味を問う異色作

【東京 10月9日】

黒澤明監督による新作映画『生きる』が、本日より日比谷・スカラ座ほか全国主要館で封切られた。

封切初日から注目を集めたこの作品は、これまでの時代劇作品とは異なり、現代の東京を舞台にしたヒューマンドラマである。

主演は志村喬氏。長年、市役所の市民課に勤めてきた初老の係長が、胃がんにより余命幾ばくもないことを知り、人生の意味を模索し始めるという筋立て。黒澤作品では珍しい“静かな主人公”を志村氏が見事に演じており、観客からは「涙が止まらなかった」「自分の人生を振り返らされた」との声も聞かれる。

作品中、主人公は初めこそ絶望に打ちひしがれるが、やがて市民のために小さな児童公園を完成させるという仕事に情熱を燃やす

その姿は、**「生きるとは何か」「人の役に立つとはどういうことか」**という問いを、観客に強く突きつけるものとなっている。

黒澤監督はこれまで『羅生門』や『醉いどれ天使』などで国内外の評価を高めてきたが、今作は現代社会の虚無と希望を同時に描いた意欲作として、さらに一歩踏み込んだ演出が見られる。

音楽は早坂文雄氏によるもので、劇中で主人公が口ずさむ「ゴンドラの唄」も印象的な演出として語り草になりそうだ。

人生を“ただ生きる”だけではない、「どう生きるか」を見つめ直す契機となる一本

評論家の間では、黒澤作品の中でも異色にして傑作との評価もあり、今後の動向が注目される。

— RekisyNews 文化面 【1952年】

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