【パリ 10月2日】
シャンゼリゼ劇場に衝撃が走った。アメリカ出身の黒人ダンサー、ジョセフィン・ベーカー(19歳)が、パリ初公演となる舞台「レビュー・ネグロ」でセンセーショナルなデビューを飾り、観客を熱狂の渦に巻き込んだ。
何より人々の記憶に焼き付いたのは、腰にバナナを巻きつけただけのコスチュームで披露したチャールストン・ダンス。奔放なリズムと官能的なステップで舞台を支配し、目の肥えたパリの観客をも魅了した。
この夜のパフォーマンスには、文豪アーネスト・ヘミングウェイや画家ピカソらも足を運び、彼女の存在感に賛辞を惜しまなかったという。
ヘミングウェイは「彼女は野生であり、自由であり、我々が忘れかけていた命の熱さを持っている」と語った。
フランスのアバンギャルド文化とアメリカのジャズスピリットが融合したレビュー・ネグロは、単なる娯楽の枠を超え、芸術の革新とも呼ぶべき熱気を帯びている。その中心に、ひとりの黒人女性が立ったことは、音楽・舞踊・社会の未来を語るうえでも象徴的な一歩と言えるだろう。
パリは今、新たな女神に出会った。
— RekisyNews 文化面 【1925年】