【東京 9月23日】
被爆地・長崎の実話に基づく感動の映画『長崎の鐘』が本日、松竹より全国公開された。原作は、長崎で自らも被爆しながら終戦後の混乱の中で医療活動を続けた永井隆博士の同名エッセイ。戦争と平和のはざまで苦しみながらも、人間の尊厳を見失わなかった医師の姿がスクリーンに描き出される。
監督は大庭秀雄氏。主演の若原雅夫氏が永井博士を、女優・月丘夢路氏が妻・みどり役を演じる。原爆投下による破壊と混乱、信仰と家族への愛、そして再生への祈りが、抑制された演出の中に静かに浮かび上がる。
映画は、永井博士の体験を通じて「生きることの意味」を問いかけるもので、医師としての苦悩や、病に倒れながらも希望を捨てぬ姿勢が深い感動を呼ぶ。博士が医学生時代にカトリックに改宗したエピソードや、長崎医科大学での被爆直後の医療救護活動、そして家庭での日々が丁寧に描かれている。
劇中では、永井博士の祈りにも似た信念が観客の心に響き渡る。「長崎の鐘」とは、戦火の中でも鳴り続けた浦上天主堂の鐘の音を指すとされ、今作の象徴的なモチーフにもなっている。
主題歌『長崎の鐘』は、国民的歌手・美空ひばり氏が歌唱し、すでにレコードとしても話題となっている。映画の公開とともに、この歌も全国に広がるものと見られる。
敗戦から5年が経過し、人々の心に深く刻まれた傷は今なお癒えきらない。だが、本作はその悲しみを越えて生きようとする意志を静かに讃え、日本映画が社会的使命を果たす姿勢を示した一本とも言えるだろう。
— RekisyNews 文化面 【1950年】