【東京 9月7日】
日本の大衆演劇界に一時代を築いた名門劇団「新国劇」が、本日9月7日をもって正式に解散した。1917年の創立から70年、剣劇と写実的演技による時代劇の復興を掲げた劇団は、その長い歴史に静かに幕を下ろした。
新国劇は、沢田正二郎によって設立され、「民衆のための国民劇」を掲げて始動。写実性と感情表現を重視した演技で、従来の型にはまった歌舞伎とは一線を画し、庶民の支持を集めた。とりわけ「国定忠治」などの演目では、台詞にリアリズムを取り入れた革新的な演出が話題となった。
戦後は島田正吾、辰巳柳太郎といった名優を中心に活動を続け、舞台のみならず映画やテレビの時代劇にも多くの俳優を輩出。昭和の演劇界に確かな足跡を残した。
しかし近年は団員の高齢化や後継者不足、時代劇人気の低下などが重なり、公演回数の減少と財政的困難が続いていた。関係者によると、劇団としての機能維持が困難となり、やむなく解散の決断に至ったという。
最後の公演は今春の「瞼の母」で、満席の観客が別れを惜しんだ。かつての団員たちからは「日本人の魂を表現してきた劇団だった」「演劇の原点を教えてくれた」との声が相次いでいる。
時代劇の灯を舞台に灯し続けてきた「新国劇」。その魂は今後、各地の劇団や俳優たちによって引き継がれていくことだろう。
— RekisyNews 文化面 【1987年】