「寅さん」に国民栄誉賞 渥美清さんに追贈決定

 【東京 9月3日】

政府は本日、先月10日に肺がんのため68歳で逝去した俳優・渥美清氏に対し、国民栄誉賞を追贈することを正式に決定した。授与理由として「長年にわたり、庶民の哀歓を巧みに演じ、多くの国民に夢と希望、笑いと感動を与えた功績が極めて大きい」と説明。芸能界からの追贈は美空ひばり氏に次いで2人目となる。

渥美氏は、昭和44年(1969年)より映画『男はつらいよ』シリーズで、放浪のセールスマン・車寅次郎(通称「寅さん」)を演じ、国民的な人気を博した。以降27年間に渡り、シリーズは計48作を数え、邦画史に残る長寿シリーズとして確固たる地位を築いた。

「寅さん」は、義理と人情に厚く、恋に不器用で、どこか憎めない存在として幅広い世代に愛されてきた。特に昭和から平成にかけての激動の時代にあって、変わらぬ風情と人情喜劇の味わいは、多くの人々の心の拠り所となった。

本日の記者会見で、橋本龍太郎首相は「渥美氏の演じた『寅さん』は日本人の心を象徴する存在。彼の功績は、芸術文化の枠を超え、社会全体に笑顔と癒しを届けた」と述べた。

追贈式の日程は未定だが、遺族や松竹関係者によれば、渥美氏は生前、華美な賞や表彰を好まず、静かな人生を望んでいたという。今回の受賞に対して、遺族は「国民の皆さまにこれほどまでに愛され、賞をいただけたことは、本人にとっても本望だと思います」と感謝の言葉を述べた。

日本映画史に残る名優、渥美清。「フーテンの寅」がスクリーンを去った今も、その笑顔と哀愁は、国民の記憶に生き続けている。

— RekisyNews 社会・文化面 【1996年】

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