【ペンシルベニア州ニュータウン 8月23日】
本日未明、画家エドワード・ヒックス氏がニュータウンの自宅で永眠した。享年69。馬車や看板の塗師として生計を立てながら、クエーカー教徒の説教者として地域に仕え、素朴で力強い筆致の作品を遺した。世俗の虚飾を戒める信仰ゆえ、華美な肖像画の注文から距離を置いたことで知られる。
代表作『ピースアブル・キングダム(平和の王国)』の連作では、イザヤ書の預言を主題に、獅子と子牛、狼と子羊、幼子らが並び立つ寓意の光景を描いた。背景にウィリアム・ペンの先住民との条約場面を配した作もあり、新大陸における和解と節制の理想を、平明な構図と温かい色調で示した。粗い亜麻布地にのる素直な輪郭線は、教義の比喩をやさしく伝える。
村の礼拝堂や農家の壁を飾った彼の絵は、説教と日常をつなぐ“視覚の言葉”でもあった。標語や動物、牧歌的風景を組み合わせた道徳的図像は、人々の暮らしの近くで磨かれ、やがて合衆国の民衆美術を語るうえで欠かせぬ記憶となった。近隣の友人は「彼の絵は説教の続きを静かに語る」と偲ぶ。葬儀は近親者と信徒による質素な集会として営まれる予定だ。静かな田園で育まれた一連の画業は、今後も長く受け継がれていく。
— RekisyNews 文化・訃報面 【1849年】