【東京 8月19日】
本日未明から都内各所で、当局は新協劇団および新築地劇団の事務所・稽古場・関係者宅を一斉に捜索し、団員ならびに後援会関係者を多数検挙した。両劇団は活動の継続が不可能となり、当局の指導の下で解散を余儀なくされる見通しだ。舞台芸術の拠点として知られた両団体の急転は、演劇界に大きな衝撃を与えている。
治安当局は、配布物や台本の内容が「時局にそぐわぬ」として治安維持法違反の疑いを掲げ、機関誌・帳簿・手紙類を押収。関係事務所は封鎖され、予定されていた公演や稽古はすべて中止となった。劇場前には中止を知らせる掲示が出され、早朝から集まった観客は肩を落とした。
当局側は「文化は国民精神の涵養に資すべき」と強調し、今後は上演内容の事前審査を一段と厳格化する方針を示した。一方、劇作家の一人は「舞台は社会を映す鏡だ。表現の場を閉ざせば、かえって民意の息苦しさを招く」と語り、表現の自由の後退を憂える声も上がる。
若手俳優や舞台技術者の行き先も不透明だ。稽古場の閉鎖で居場所を失い、別団体への合流や映画・放送への転身を模索する動きが出ているが、上演統制の強化が広がれば、活動の余地はさらに狭まるとの見方が強い。
この日の一斉弾圧は、演劇活動の在り方に転機をもたらす出来事となった。街の明かりを照らしてきた小劇場の灯は、しばし消える。再び幕が上がる日が来るのか、演劇界の行方に注目が集まっている。
— RekisyNews 文化・社会面 【1940年】