【ニューヨーク 8月17日】
ジャズ界の巨匠マイルス・デイヴィスが、本日新作アルバム『Kind of Blue』を発表した。レコード店の店頭に並ぶや否や注目を集め、多くの愛好家が熱心に針を落としている。今回の作品は従来の複雑な和声進行にとらわれず、限られた音階を基盤にした即興を展開する「モード奏法」を中心に据えた意欲作となっている。
録音はニューヨークのスタジオで行われ、参加したメンバーはいずれも当代きっての名手たちだ。ピアノにはビル・エヴァンスとウィントン・ケリー、サックスにはジョン・コルトレーンとキャノンボール・アダレイ、ベースにポール・チェンバース、ドラムにジミー・コブが顔をそろえた。彼らの織りなす響きは、洗練されつつも自由な空気をまとい、聴く者を深い没入へと導く。
冒頭の「So What」では簡潔なリフの上でトランペットとサックスが次々に対話を繰り広げ、従来のジャズにはなかった余白の美を示した。続く「Freddie Freeloader」や「Blue in Green」では哀愁を帯びた旋律が広がり、静かな情感が漂う。レコードを試聴したファンの一人は「音が少ない分、かえって心に深く響く」と感想を語った。
評論家の間では「ジャズが新たな段階に入った」との評価が早くも上がっている一方、「伝統的なハード・バップの力強さが薄れた」と懐疑的な声もある。だが、聴衆の間ではその独特な響きに驚きと新鮮さを覚える者が多く、夜のクラブでは早速演奏を真似する若手の姿も見られる。
マイルス本人はインタビューで「音楽はもっと広く、もっと自由でいい」と語り、今後も従来の形式にとらわれない創作を続ける意欲を示した。『Kind of Blue』の登場は、ジャズの未来に大きな一石を投じることになりそうだ。
— RekisyNews 文化・音楽面 【1959年】