【東京 8月16日】
東京都は本日、上野動物園に対し園内で飼育中の大型猛獣類を処分するよう正式に指令した。戦時下において、空襲や震災などで檻が破損し、動物が市街地に逃げ出す事態を未然に防ぐための措置とされる。
対象はライオン、トラ、ヒョウ、クマなど肉食性の強い大型獣で、現時点で十数頭が該当。今後、飼育員らが薬物投与や餓死による安楽死処置を行う予定だという。都の衛生課長は「市民の生命と安全を第一に考えた苦渋の決断」と説明した。
上野動物園は明治15年の開園以来、国内外から多くの動物を集め、都民に親しまれてきた名所であるだけに、処分決定は関係者に大きな衝撃を与えている。ある飼育員は「長年世話をしてきた動物たちを自らの手で絶たねばならないのは断腸の思い」と声を詰まらせた。
来園経験のある市民からも「動物に罪はない」「疎開や避難の方法を探すべきだ」といった反対意見が上がる一方、「非常時にはやむを得ない」とする理解の声もある。園側は、処分する動物について記録を残し、一部は剥製として保存する意向を示している。
戦局の緊張は檻の中の命にも及び、平時には考えられない決断を迫っている。上野の園内には、今も静かに佇む猛獣たちの姿があり、その行く末を見守る職員の眼差しは重い。
— RekisyNews 社会面 【1943年】