【東京 8月12日】
阪急電鉄や宝塚歌劇の創始者として知られる小林一三氏は本日、株式会社東京宝塚歌劇場を設立し、都内で発足式を行った。資本金は100万円、本社は有楽町に置かれ、来春を目途に新劇場の開場を予定している。関西で培った歌劇事業を首都圏に展開し、演劇界・興行界に新風を吹き込む狙いだ。
同氏は発足式で「東京の文化的娯楽を一層豊かにし、演劇・音楽・舞踊の総合芸術を提供したい」と抱負を述べた。新劇場は鉄筋コンクリート造、収容約2000席を想定し、音響や舞台転換装置は最新式を導入する計画。宝塚歌劇団の出演を中心に、洋楽コンサートや舞踏公演も視野に入れるという。
宝塚歌劇は1914年の創設以来、華やかな舞台美術と女性のみの出演で人気を博し、関西では長期興行を成功させてきた。今回の東京進出は、同団の全国的な知名度を背景にした事業拡大であり、阪急沿線にとどまらぬ集客を目指す。
演劇界からは「洋風の大劇場が増えることで公演内容の多様化が進む」との期待が寄せられる一方、既存の劇場経営者からは「競争激化への懸念」も聞かれる。東京市民の間では「宝塚が身近で見られる」と話題になり、若い女性層を中心に関心が高まっている。
小林氏は鉄道・百貨店・住宅事業の経験を活かし、劇場運営にも多角的な経営手法を導入する構えだ。完成すれば、東京の劇場地図は大きく塗り替えられることになりそうだ。
— RekisyNews 文化部 【1932年】