【東京 8月10日】
文藝春秋の選考会は本日、創設第1回となる芥川賞と直木賞の受賞作を決定した。芥川賞は石川達三(30)の『蒼氓』(「星座」創刊号掲載)に、直木賞は川口松太郎(35)の『鶴八鶴次郎』『風流深川唄』ほか一連の業績にそれぞれ贈られる。決定は本日付で発表、選考経過は来月号誌上に掲載される見込みだ。
石川の『蒼氓』は、海外移住を志す人々を通して当時の社会の息づかいを描き、簡潔な筆致と観察の確かさで高い評価を得た。選考委員は、新人離れした構成力と素材の鮮度を指摘、純文学の新たな担い手の誕生として受賞を推挙した。
一方、川口は江戸情緒と人情の機微を軽妙に綴る筆致で、読者の支持を集める大衆文芸の旗手。『鶴八鶴次郎』『風流深川唄』など舞台・映画化も期待される一連の作品が評価され、「読みの喜び」と「職人芸」の両立が決め手になったという。
両賞は、菊池寛が芥川龍之介・直木三十五の名を冠して創設したもので、純文学系の新人を顕彰する芥川賞と、大衆文芸の新鋭・中堅を照射する直木賞を「車の両輪」として位置づける。初回の選考会は1935年8月10日に開かれ、以後は年2回の実施が予定されている。
出版社・書店街では早くも受賞帯の増刷準備が始まり、文壇関係者は「新人の登竜門が整った」と歓迎の声。編集者の一人は「純と大衆、二つの水脈を同時に押し上げる“読者本位の賞”が、これからの日本文学の地図を描き替える」と語った。
— RekisyNews 文化部【1960年】