【パリ 3月11日】
本日夜、パリ万国博覧会の開幕を控えて熱狂に包まれるル・ペルティエ劇場において、イタリアの巨匠ジュゼッペ・ヴェルディ氏による新作オペラ『ドン・カルロ』が世界初演を迎えた。フランス国立オペラ座の委嘱によるこの全5幕のグランド・オペラは、16世紀スペイン宮廷を舞台とした愛と権力の相克を壮大なスケールで描き出した。
物語は、スペイン王子ドン・カルロと、彼の婚約者でありながら父王フェリペ2世の妻となったエリザベートの悲恋を軸に展開する。ヴェルディ氏は、シラーの戯曲を基に、個人の感情と国家の情勢、さらには強大な宗教権力の圧力を緻密な音楽構成で表現。特に第4幕における、孤独な国王と盲目の宗教裁判所長官による重厚なバス二重唱は、観衆を息を呑むような緊張感へと引き込んだ。
初演は深夜まで及ぶ長丁場となったが、豪華絢爛な舞台装置と合唱、そしてヴェルディ氏の円熟味を増したオーケストレーションは、パリの耳の肥えた聴衆を圧倒した。一部では上演時間の長さに対する戸惑いの声も聞かれたが、芸術的な完成度の高さは疑いようがない。
この作品は、単なる娯楽としてのオペラを超え、人間の内面と社会の歪みを鋭く突く社会派ドラマとしての側面も持っている。万博という国際的な舞台で披露された『ドン・カルロ』は、イタリア・オペラの枠を超え、ヴェルディ氏が世界の音楽界における真の「王者」であることを改めて証明した夜となった。
— RekisyNews 文化面 【1867年】
