ヴェネツィアに散った「落ちた女」 ── ヴェルディ新作『椿姫』、フェニーチェ座で初演

【ヴェネツィア 3月6日】

本日、水の都ヴェネツィアのフェニーチェ座において、稀代の作曲家ジュゼッペ・ヴェルディの最新作オペラ『椿姫(ラ・トラヴィアータ)』が初演の幕を開けた。アレクサンドル・デュマ・フィスによる話題の戯曲『椿姫』を題材とした本作は、これまでのオペラが描いてきた「遠い過去の英雄譚」ではなく、「現代のパリ」を舞台にした禁断の愛を描く衝撃作として、開演前から異常なほどの注目を集めていた。

物語は、華やかな社交界に身を置く高級娼婦ヴィオレッタ・ヴァレリーと、純朴な青年アルフレードとの悲劇的な愛を描き出す。序曲の繊細な旋律に始まり、第一幕の乾杯の歌「友よ、さあ飲みあかそう」の華やかさ、そして終幕に向けてヴィオレッタが病に蝕まれていく哀切な表現に、観客は息を呑んで見入った。

しかし、本日の初演を終えた場内には、感嘆の声とともに戸惑いの色も混じっている。劇中の設定は「現代」であるにもかかわらず、劇場の要請により演出が「ルイ14世時代」の衣装に変更されたことへの違和感や、悲劇のヒロインを演じるソプラノ歌手の体格が、結核に倒れる薄幸の女性という役どころにそぐわないとする厳しい評価も一部で聞かれる。ヴェルディ自身、終演後に知人へ「大失敗(フィアスコ)だ。私のせいか、歌手のせいかは時が解決してくれるだろう」との心境を吐露したとも伝えられている。

愛、犠牲、そして残酷な社会の偏見。これまでのオペラの常識を打ち破る「現実主義(ヴェリズモ)」の萌芽を感じさせる本作が、今後どのような評価を受けるのか。フェニーチェ座を埋め尽くした聴衆の反応は分かれているものの、劇中に散りばめられた比類なき旋律の美しさは、早くもヴェネツィアの運河に響き始めている。

— RekisyNews 文化面 【1853年】

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