【奈良市 10月14日】
本日、奈良県の伝統産業「奈良筆」が通商産業省(現・経済産業省)より、伝統的工芸品として正式に指定された。
これは、1974年に施行された「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基づき、全国の優れた工芸品を国が認定し、保護・振興を図るもので、奈良筆は筆記具としては初の指定となる。
奈良筆は、その歴史を千年以上さかのぼり、奈良時代にはすでに写経や公文書作成に用いられていたとされる。筆づくりは毛の選定から軸の製作、毛先の仕立てに至るまですべてが職人の手仕事で行われ、わずかな筆圧や運筆に応える繊細さが特徴だ。
現在、奈良市や生駒市を中心に十数軒の筆司が伝統を守りながら製作を続けており、書道用のみならず、仏画や日本画、化粧筆など多岐にわたる需要に応じている。
今回の指定により、製造工程や素材、技術の継承が国の保護対象となると同時に、後継者育成への支援や流通促進が期待されている。
指定を受けた奈良市の筆司、吉川忠治さん(62)は、「祖父の代から続けてきた筆づくりが、こうして国に認められたのは感無量。これを励みに、ますます精進していきたい」と語った。
同省では今後、展示会や後継者支援などを通じ、地域と共にある工芸文化の再評価を進める方針。長い歴史に育まれた奈良筆は、今日から「日本の宝」としてあらためて光を浴びることになった。
— RekisyNews 文化面 【1977年】