【ニューヨーク州サラトガスプリングズ 8月24日】
本日夕刻、湖畔のレストラン「ムーンズ・レイク・ハウス」で、客の「ポテトが厚くて柔らかい」との苦情に応じ、料理長ジョージ・クラムが紙のように薄く切ったじゃがいもを高温の油で揚げ、塩だけで供したところ、卓上は歓声に包まれた。皿に残ったのは砕け散るほど軽い食感と香ばしさ、そして「もう一皿」の合唱である。
クラムは、薄切りを水にさらしてでんぷんを落とし、布で丁寧に拭き上げてから、浅鍋で一気に揚げ、油を切って塩を振るという簡素な手順を徹底。付け合わせの域を超える“主役”の存在感に、同席の紳士淑女はグラスを置いて手を伸ばした。厨房では揚げ時間と温度の微調整が重ねられ、薄さはほぼ同じ硬貨程度に統一されたという。
店はさっそく常設の一品として採用する構えで、名称は「サラトガ・チップス」が有力。持ち帰り用に厚手の紙袋や缶詰めの検討も始まり、湿気を避けるための保管法が話題だ。ワインやビールとの相性もよく、軽食としての注文が相次いでいる。
「偶然のひらめきが看板料理を生むとは」と店主は目を丸くする。湖畔の夕風とともに広がった薄焼きの新味は、今後、街の酒場やホテルの食堂へも広がる見通しだ。明日には、皿の上の“ぱりっ”という音が、サラトガの新名物の合図になるかもしれない。
— RekisyNews 文化・食の面 【1853年】