【霞ヶ浦航空隊 8月19日】
本日夕刻、ドイツの硬式飛行船「ツェッペリン伯号(LZ127)」が世界一周飛行の途中、日本に到着し、霞ヶ浦海軍航空隊基地にゆるやかに降り立った。巨大な船体が湖畔をかすめて旋回すると、集まった見物客から歓声が上がり、着陸と同時に拍手が沸いた。世界一周の中継地として日本に寄港するのは初めてである。
同機は先に欧米を経由して東へと航程を取り、日本で整備と補給を実施する計画だ。飛行は各地の観測や記録を伴う長距離行で、乗員は気象・機関の点検を入念に行っているという。到着後は係留索が張られ、地上要員が連携して誘導、点検作業に移った。
霞ヶ浦の滞在期間中、一般公開の可否は未定ながら、沿道や駅には早朝から見物客が詰めかけ、上空通過の知らせに人波が動いた。関係筋によれば、数十万人規模の人出が見込まれ、周辺は臨時の交通整理が敷かれている。湖畔の茶店では記念はがきや旗が飛ぶように売れたという。
次の行程では、整備と補給を終え次第、太平洋横断区間へ移る見通しだ。霞ヶ浦から東へ離陸後、一路アメリカ西岸を目指す計画で、長大な海上区間を無着陸で越える試みとして国際的な注目を集めている。
日本各地で空に描かれた白い巨影は、時代の新しい移動と通信の姿を象徴する。国境を越えて人と情報を運ぶ空の船は、世界を縮め、国と国を近づける。壮挙の完遂と安全な航続に期待が高まっている。
— RekisyNews 国際・交通面 【1929年】