【ブリュッセル 3月13日】
本日、ヨーロッパ共同体(EC)の加盟8か国において、域内の為替相場安定を目的とした「欧州通貨制度(EMS)」が正式に発足した。この新制度の中核をなすのが、共通の通貨単位「ECU(エキュ)」である。ドルに対抗し、経済的に自立した「ヨーロッパの通貨圏」を築くための壮大な実験が、ついに幕を開けた。
ECUは、西ドイツ・マルクやフランス・フラン、イタリア・リラなど、参加各国の通貨を一定の重み(ウェート)で配分した「通貨バスケット」方式を採用している。各国の為替レートはこのECUを基準とした「中心レート」に固定され、上下2.25%(リラのみ6%)の狭い範囲内での変動に抑えられる。これにより、これまで欧州経済を揺さぶってきた激しい通貨変動を抑制し、貿易や投資の安定を図る狙いがある。
今回の制度発足は、フランスのジスカールデスタン大統領と西ドイツのシュミット首相による強力な主導によって実現した。しかし、イギリスは自国の金融政策への影響を懸念し、現時点では為替相場メカニズム(ERM)への参加を見送っている。
ECUは当面、中央銀行間の決済や会計上の単位としてのみ使用され、一般市民が手にする紙幣や硬貨が存在するわけではない。しかし、経済専門家の間では「このECUこそが、将来の単一通貨への布石である」との見方が強い。
オイルショック以降のインフレと通貨不安に苦しんできたヨーロッパにとって、この「通貨の盾」がどれほどの効果を発揮するのか。世界の金融市場は、ブリュッセルから発信される新たな経済秩序の行方を注視している。
— RekisyNews 経済面 【1979年】