化学が紡ぐ「魔法の糸」 ── デュポン社、合成繊維「ナイロン」を開発

【デラウェア州ウィルミントン 2月28日】

化学業界の巨人、米デュポン社は本日、同社の研究所において、世界初となる完全な人工合成繊維の作成に成功したと発表した。ウォーレス・カロザース博士率いる研究チームが開発したこの新素材は、「ナイロン(Nylon)」と名付けられ、衣料品から工業製品に至るまで、人類の生活を劇的に変える可能性を秘めている。

カロザース博士は、分子が鎖のように長くつながる「重合反応」の基礎研究を長年続けてきた。今回、石炭や石油、水、そして空気という、ごくありふれた原料から抽出された成分を化学的に結合させることで、天然の繊維である絹(シルク)を凌ぐ強度と、鋼鉄のような弾力性を兼ね備えた高分子化合物を生み出したのである。

デュポン社はこの新繊維について、「絹よりも細く、鋼鉄よりも強く、クモの糸よりも美しい」と評している。特に、日本からの輸入に大きく依存している生糸の代替品として、女性用の靴下(ストッキング)市場などに巨大な需要が見込まれている。また、耐摩耗性や耐薬品性にも優れていることから、軍事用のパラシュートやブラシなど、多方面への応用が期待されている。

この発明は、自然界にあるものを加工するだけの段階から、人間が望む性質を持つ素材を一から「設計」して作り出す、化学の新時代の到来を告げるものである。カロザース博士の執念が生んだ「ナイロン」という小さな鎖が、世界の産業構造を根本から塗り替えようとしている。

— RekisyNews 科学面 【1935年】

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