【ローマ 8月24日】
本日未明、アラリック1世率いる西ゴート族の軍勢がサラリア門から城内へ突入し、永遠の都は陥落した。市街では直ちに略奪が始まり、貴族邸や公庫が次々にこじ開けられている。長期の包囲で穀倉は空となり、飢えと疫病に弱った市民は逃げ惑い、街路は荷車と泣き声であふれた。
背景には、数か月の封鎖と講和の破談がある。元老院は貢納と人質で停戦を試みたが、城内の奴隷や傭兵の一部が門を開いたとの報もあり、守備の綻びを突かれた。城壁上の投石は間に合わず、武装した群衆は早々に潰走した。
一方で、聖堂は避難所となっている。サン・ピエトロ、サン・パオロ両大聖堂には聖職者が旗を掲げ、アラリックは神域の侵犯と放火を禁じる旨を伝えたとされる。しかし個々の隊の掠奪は止まず、市中ではところどころで火の手が上がる。金銀細工や豪奢な織物、古像の金箔が剥がされ、荷駄に積み込まれていく。
皇帝ホノリウスはすでにラヴェンナへ退避しており、宮廷は沈黙を守る。富裕層は身代金で家族の解放を求め、逃亡奴隷や債務奴婢の解放が相次ぐなど社会秩序は揺らいでいる。港と街道には避難民の列が続き、穀物市場は閉鎖。一部の元老院議員や高位聖職者が拘束されたとの未確認情報も流れる。
「ローマは不滅」という信仰は今日、深く傷ついた。西ゴート軍が南下してシチリア・アフリカを窺うのか、戦利と食糧を得て撤収するのか、いまのところ見通せない。夜の鐘は止まず、祈りと嗚咽が石畳にこだまする。市門の扉には破城槌の痕が黒々と残り、川の渡し場は混乱で閉鎖された。
— RekisyNews 国際・戦況面 【410年】