【ブエノスアイレス 3月24日】
アルゼンチン共和国で本日未明、陸・海・空の三軍による組織的な無血クーデターが発生した。世界初の女性国家元首として政権を担ってきたイザベル・ペロン大統領は身柄を拘束され、大統領職を解任された。これにより、混乱を極めたペロン体制は崩壊し、ビデラ陸軍総司令官を中心とする軍事評議会が国家の全権を掌握した。
クーデターは極めて迅速に実行された。深夜、大統領府を離れヘリコプターで移動中だったペロン大統領は、軍部によって強制的に着陸させられ、そのまま地方の別荘へ軟禁状態に置かれた。都心部では主要な官公庁や放送局が軍によって封鎖されたが、大きな武力衝突や流血の惨事には至っておらず、首都ブエノスアイレスの街頭には装甲車が展開する重苦しい静寂が広がっている。
ペロン政権下のアルゼンチンは、年率300%を超える空前のハイパーインフレと経済の停滞に見舞われていた。加えて、極左武装勢力と右派過激派によるテロや誘拐が日常化し、「国家機能が完全に麻痺している」との批判が強まっていた。軍部は声明で「無秩序と腐敗から国家を救済するためのやむを得ない措置である」と述べ、治安の回復と経済再建を最優先課題に掲げている。
しかし、国際社会からは民主的に選出された政府を武力で倒したことへの懸念も示されている。新たに実権を握った軍部が、反対勢力に対して「汚い戦争」と呼ばれる徹底的な弾圧に乗り出す可能性も指摘されており、市民の間では秩序回復への期待と、強権統治による人権侵害への恐怖が入り混じっている。アルゼンチンは今、民主主義の長い冬へと足を踏み入れようとしている。
— RekisyNews 海外面 【1976年】
