【ビルマ・チンドウィン川岸 3月8日】
本日夜、ビルマ方面軍の精鋭第15軍は、インド東部の重要拠点インパールの奪還を目指す「ウ号作戦」の火蓋を切った。第二次世界大戦の帰趨を決する一大反攻作戦として、数万の将兵が月明かりの下、滔々と流れるチンドウィン川の渡河を開始。日本軍はついに、大英帝国の版図であるインド帝国領内への本格侵攻へと足を踏み入れた。
牟田口廉也中将率いる第15軍の戦略目標は、連合軍の反攻拠点であり、重慶への援蒋ルートの根幹を成すインパールの制圧である。作戦の最大の特徴は、輜重(補給)部隊を最小限に抑え、現地調達と牛馬による運搬に頼る「迅速果敢な進撃」に置かれている。将兵らはわずか20日分の糧食を背負い、アラカン山脈の険路を越えて一気に敵陣を突く構えだ。
「インパールを陥落させれば、インド国民軍と共にインド独立の烽火を上げることができる」。渡河を前にした前線司令部には、このような楽観的かつ壮大な期待が漂っている。しかし、眼前に広がるのは標高2000メートル級の山々が連なる密林地帯であり、雨季の到来も間近に迫っている。補給線の確保という軍事の鉄則を度外視したこの強行軍が、果たして当初の目論見通り進むのか、一部の幕僚からは不安の声も漏れ聞こえる。
本日、チンドウィン川を渡った兵士たちの軍靴の音は、ビルマからインドへと続く果てしないジャングルの中に消えていった。この渡河が栄光への第一歩となるのか、あるいは未曾有の悲劇の始まりとなるのか。運命の歯車は、いま力強く回り始めた。
— RekisyNews 軍事面 【1944年】
