ワーグナー『ローエングリン』、ヴァイマルで初演 リスト指揮で神秘劇が幕

 【ヴァイマル 8月28日】

本日、ヴァイマル宮廷劇場でリヒャルト・ワーグナーの新作歌劇『ローエングリン』が初演された。指揮は宮廷楽長フランツ・リスト。序曲は透明な弦のトレモロに木管が重なり、「聖杯」の動機が天上から降りるように増幅して客席を静め、やがて金管が光を差し込ませる。小編成の劇場ながら合唱の厚みは十分で、第一幕終盤の群衆シーンでは舞台袖まで波打つような推進力を見せた。

物語は、白鳥に曳かれて現れた騎士ローエングリンがエルザを救い、「決して私の名や素性を問うてはならぬ」と誓わせて婚姻するが、疑念の種がふたりを分かつという中世伝承に拠る。第三幕「婚礼の合唱」は清澄な和声で祝祭の空気を満たし、直後に訪れる悲劇との対比が胸に刺さる。敵役テルラムントとオルトルートの暗色の和声は、主人公たちの光を際立たせ、拍手は場ごとに大きくなった。

演出・装置はロマネスク趣味の堂塔や旗標を配し、儀礼的所作と行進で“見える音楽”を形にした。作曲者ワーグナー本人は亡命の身で不在だが、プログラム冒頭には献辞が掲げられたという。リストは細部のアーティキュレーションを徹底し、レチタティーヴォからアリア、合唱への移ろいを継ぎ目なく束ね上げた。終演後、楽長と歌手陣は幾度もカーテンコールに応じ、諸都市からの上演打診が早くも取り沙汰されている。

抒情と理念劇を橋渡しする本作は、ドイツ歌劇の次章を告げる一頁となろう。騎士の問いかけは舞台を越え、観客にも「信じるとは何か」を静かに問うている。

— RekisyNews 文化・音楽面 【1850年】

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