【東京 3月5日】
本日午前11時半頃、東京市日本橋区の三井本館玄関前において、三井合名会社理事長で男爵の團琢磨氏(73歳)が、暴漢に狙撃され死亡した。先月の井上準之助前蔵相暗殺に続く、白昼堂々の重鎮襲撃事件に、政財界は言いようのない戦慄に包まれている。
團氏が自動車を降り、本館の玄関に向かおうとした瞬間、背後から近づいた男が至近距離から拳銃を発射。弾丸は團氏の背中を貫通し、氏はその場に崩れ落ちた。直ちに三井記念病院へ搬送されたが、内臓貫通による出血多量により、正午過ぎに死亡が確認された。
犯人はその場で護衛や警察官によって取り押さえられた。調べによると、犯人は茨城県出身の古内栄司(21歳)で、過激な右翼思想を持つ「血盟団」の一員であることが判明した。同団は「一人一殺」を掲げ、現在の深刻な不況や農村の窮状の原因は、既得権益を握る政商や特権階級にあるとして、要人の暗殺を企てていたとされる。
團氏は、米欧回覧実記で知られる岩倉使節団に同行して留学した経歴を持ち、三井財閥を近代的な巨大コンツェルンへと育て上げた日本経済界の最高指導者であった。近年は「ドル買い事件」などで世論の批判を浴びることもあったが、国際協調を重んじるリベラルな経済人としての評価も高かった。
先日の井上氏、そして本日の團氏と、国家の屋台骨を支える人物が相次いで凶弾に倒れたことで、テロによる社会不安は頂点に達している。この凄惨な血盟団事件は、政党政治と財閥主導の経済体制が終焉を迎え、軍部や右翼勢力が台頭する「暗黒の時代」への序曲となるのではないかとの懸念が広がっている。
— RekisyNews 社会面 【1932年】
