「岩窟王」の汚名、半世紀経て雪がれる ── 吉田石松氏に無罪判決

【名古屋 2月28日】

大正2年に発生した強盗殺人事件で服役し、無実を訴え続けてきた「今様岩窟王」こと吉田石松氏(83)に対し、名古屋高等裁判所は本日、再審無罪の判決を下した。事件発生から実に50年目、刑期を終えてからもなお戦い続けた一人の男の執念が、ついに司法の厚い壁を打ち破った。

事件は1913年(大正2年)、栃木県足利市で発生した。吉田氏は身に覚えのない強盗殺人罪に問われ、無期懲役の判決を受けた。獄中にあっても「自分はやっていない」と叫び続け、復讐に燃える小説の主人公になぞらえ「岩窟王」と呼ばれた。仮出所後も、吉田氏は自ら真犯人を捜し出し、証拠を集めるために全国を奔走。その執念が実り、今回の再審へと繋がったのである。

本日の判決で、名古屋高裁は「当時の自白は拷問に近い不当な取り調べによるものであり、証拠としての価値はない」と厳しく指摘。半世紀前の捜査の過ちを公式に認めた。法廷で無罪が言い渡された瞬間、耳が遠くなった吉田氏は傍聴席の家族から結果を伝えられ、深く頭を垂れて涙を流した。

この判決は、長年放置されてきた「冤罪」という深刻な人権侵害に光を当てた。83歳となった吉田氏は、記者団に対し「長かった。やっと人間として認められた気がする」と声を震わせた。半世紀もの歳月を奪った国家の責任は重いが、一人の老人が人生のすべてを賭して証明した「真実」は、日本の司法史に消えない教訓を刻み込んだ。

— RekisyNews 社会面 【1963年】

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