【ブリック 2月24日】
欧州の地勢を根本から書き換える、世紀の大事業がついに結実した。本日、スイスとイタリアを隔てるアルプス山脈を貫くシンプロントンネルが完成した。全長約20キロメートルに及ぶこのトンネルは、当時世界最長を記録。険しい山嶺を克服し、パリとミラノを最短距離で結ぶこの「鉄の道」の完成により、欧州の物流と人の流れは劇的な加速を見せることになる。
事業の背景には、拡大を続ける欧州経済の要請と、近代土木技術の極限への挑戦がある。1898年の着工以来、工事は困難を極めた。最大2,100メートルもの土被り(どかぶり)による凄まじい地圧、そして作業員を苦しめた摂氏50度を超える高熱の湧水。これらの障害に対し、技術者たちは並列する二つの坑道を掘り進め、一方を換気と排水に利用するという革新的な工法を導入して対抗した。まさに、人知が自然の障壁を打ち破った科学の勝利と言える。
現場となった貫通地点では、スイス側とイタリア側の作業員たちが瓦礫の山を越えて手を取り合い、万歳三唱の嵐が巻き起こった。暗く湿った坑内に、初めて向こう側の光が差し込んだ瞬間、何年もの間、暗闇と高熱に耐えてきた男たちの顔には、泥にまみれながらも誇らしげな笑みが浮かんだ。ある熟練の坑夫は「この穴は単なる道ではない。国と国を繋ぐ希望の絆だ」と、嗄れた声で喜びを爆発させた。アルプスの冷涼な空気がトンネルを吹き抜け、長い冬の終わりを告げるかのような爽快感が現場を包んでいる。
このシンプロントンネルの開通が、欧州における鉄道網の統合を決定的なものとし、国境を越えた経済圏の構築を盤石にするのではないかとの見方もある。また、この巨大プロジェクトで培われた掘削技術が、後の世界の長大トンネル建設の模範となり、人類がいかなる地理的障壁をも克服する勇気を与えるのか。アルプスの心臓を貫いた鉄路が、欧州の未来をいかなる高みへと導くのか、その行方が鋭く注目される。
— RekisyNews 科学面 【1905年】
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