「説教強盗」ついに年貢の納め時 ── 妻木松吉、日暮里で御用

【東京 2月23日】

昭和初期の東京を震撼させ、世間を騒がせた希代の怪盗がついに捕縛された。

本日早朝、警視庁は北豊島郡日暮里町の隠れ家において、「説教強盗」こと妻木松吉を逮捕した。妻木は過去数年にわたり、都内各地の資産家宅へ侵入しては、金品を奪うだけでなく被害者に防犯の不備を説き伏せるという特異な手口を繰り返してきた。この前代未聞の犯罪者の失脚は、不安に震えていた市民に安堵をもたらすとともに、当時の格差社会が生んだ奇妙なダークヒーローの終焉として大きな話題を呼んでいる。

今回の逮捕劇の背景には、大正末期から昭和へと移り変わる激動の時代の影がある。慢性的な不況と失業者の増大が社会不安を煽る中、妻木は「戸締まりが悪い」「金持ちなら少しは恵んだらどうだ」といった説教を垂れることで強盗行為を正当化し、一種の義賊的な振る舞いを見せていた。警視庁は面子をかけて大規模な捜査網を構築し、刑事たちが昼夜を問わず聞き込みを続けた結果、ようやく足取りを掴むに至った。単なる凶悪犯とは異なる、知性的かつ狡猾な逃亡生活が、ついに警察の執念に屈した形である。

現場となった日暮里の潜伏先は、薄暗い路地の奥に位置するうらぶれた民家であった。踏み込んだ刑事たちに対し、妻木は抵抗らしい抵抗も見せず、淡々と応じたという。その風貌はどこにでもいる穏やかな職人のようであり、凶行を重ねた強盗犯の面影は薄い。連行される際、集まった野次馬に向かって微かに苦笑いを浮かべたとも伝えられており、犯罪者でありながら民衆の関心を惹きつける独特の空気が現場を支配していた。署へと向かう車中、彼は自らの余罪をぽつりぽつりと語り始め、その「講釈」は取調室でもなお続いている。

この妻木の逮捕が、防犯意識の向上とともに警察機構の威信回復に寄与するのではないかとの見方もある。また、彼が説教の中で突きつけた富の偏在に対する痛烈な批判が、閉塞感の漂う現代社会の歪みを浮き彫りにし、後の犯罪心理学や社会制度の議論に一石を投じるのではないかとの指摘もなされている。法の裁きを受けることとなった「説教強盗」の半生が、公判を通じていかなる真実を露呈させていくのか、その行方が鋭く注目される。

— RekisyNews 社会面 【1929年】

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