【モスクワ 8月23日】
本日深夜、ドイツとソ連はモスクワにて不可侵条約に調印した。両国は相互に武力不行使と第三国支援の抑制を約し、紛争の平和的解決を掲げる。独仏英との緊張が高まる中での急転に、欧州の外交地図は一夜にして塗り替えられた。ベルリンは「東方の安定」を強調し、モスクワは「平和維持と国益確保」と説明、宣伝無線は相次いで友好を唱えている。
観測筋は、ドイツにとっては二正面戦回避の効果、ソ連にとっては再軍備と防衛線再編の時間獲得が狙いとみる。ポーランドをめぐる危機が続くなか、西側諸国の抑止力は大きく揺らぎ、バルト諸国や東欧小国には不安が広がった。条約の付属文書の有無については沈黙が守られているが、勢力圏に関する取り決めがあるのではとの臆測が飛び交う。
ロンドンとパリでは緊急会議が召集され、同盟義務の確認と動員計画の見直しが進む見込みだ。ワルシャワは「主権を侵すいかなる要求にも屈しない」と声明。汽車駅と工場では不安げな人波が絶えず、為替と商品市況は乱高下した。
電撃的な握手は、戦争の足音を遠ざけるのか、むしろ速めるのか。欧州は今、歴史の曲がり角に立っている。
— RekisyNews 国際・外交面 【1939年】