【東京・新橋 8月20日】
本日、東京電気鉄道が新橋—品川間で路面電車の運行を開始した。頭上の電線から電力を得る車両は、馬車に比べ立ち上がりが速く、停留所へ静かに滑り込む。沿道の店先には見物人が並び、子どもが帽子を振った。煤煙を出さず、停車間隔を詰められるのが強みで、会社は増便で混雑緩和を図る。
駅前では案内標識が整えられ、乗降導線の見直しが始まった。変電所の増設と車両増備も計画され、朝夕の通勤列が短くなる見込みという。商店主は「商品の運搬が定時にできる」と歓迎し、住人は「窓を閉めずに済む」と笑う。車内灯の明るさと乗り心地の柔らかさも評判で、揺れは小さい。
運転本数は従来より増え、時刻表の細分化で待ち時間が短縮される。制服姿の車掌はベルで出発を告げ、乗客は真鍮の手すりをつかんで揺れに備える。会社は運賃の掲示と定期券制度の導入を予告し、停留所には路線図が貼られた。交通の近代化は、街の時間の刻み方そのものを変える。
安全面では、交差点での徐行と歩行者優先が徹底され、馬車との並走区間には注意喚起の看板が置かれた。停留所の位置も見直され、混雑時は臨時停車が行われる。沿線の住宅では窓ガラスが震えるものの、煤煙が入らない利点が上回るとの声が多い。
無煙の足が走り出した今日、都市は少し速く、少し清潔になる。線路の響きと電動機の唸りは、新しい日常の鼓動だ。次は延伸と折返し設備、信号の改良が課題となる。車輪が磨く軌条の光沢は、街の未来を映している。
— RekisyNews 社会・交通面 【1902年】