小型ヨット「白鴎」世界一周を完遂 三崎に凱旋、岸壁に万歳


【神奈川・三崎漁港 8月20日

本日、小型ヨット「白鴎」が長航海を終え三崎に入港した。三人の乗組員は季節風と海流を読み、太平洋・大西洋・インド洋をつないで外洋を一周。寄港地では自力で帆柱と舵を修理し、補給と気象情報の収集を重ねたという。港口に白い船体が現れると、岸壁は紙吹雪と万歳で揺れ、汽笛が鳴り響いた。

航路の難所では、低気圧帯をやり過ごすために帆を絞り、セール面積を落として船首を風に立てた。夜は星と無線方位で自位置を確かめ、昼はデッキを乾かして塩を落とす。帆走の合間には帆縫いと索具の点検、ビルジの排出が日課となった。船長は「海図と星に教わった」と笑い、仲間は「夜明けごとに違う水平線があった」と振り返る。

狭い船室での当直交代、限られた水と食糧の管理、疲労と孤独のやりくり―小さな船で大きな海へ出るには、技術と胆力の双方が要った。赤道通過ではスコールに打たれ、寒流域では甲板が凍り、帆桁のボルトを素手で温め直した夜もある。帰港の桟橋では同好のセーラーが「自分たちも続く」と握手を求め、子どもたちは小さな紙の帆を掲げた。白い三角帆が示したのは、豪華な装備ではなく、工夫と練度で世界は回れるという事実だ。

今回の成果は、航海術の継承にも光を当てる。紙の海図と六分儀、風向標、手元の整備工具――最小の道具を最大限に生かす術は、電子機器の時代にも錆びていない。港に戻った三人が最初に求めたのは祝杯ではなく、濡れた帆の手入れだったという。海は終わりを知らず、帆はまた風を待っている。

— RekisyNews 探検・航海面 【1970年】

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