【メンロパーク(米国ニュージャージー州) 12月6日】
本日、発明家 トーマス・エジソン は、自身が開発した新しい装置 「蓄音機(フォノグラフ)」 を用い、人間の声を世界で初めて録音・再生することに成功した。
科学界のみならず一般市民にとっても驚くべき偉業であり、音を“記録して残す”という概念が現実となった瞬間である。エジソンの研究所メンロパークでは、朝から見慣れぬ筒状の機械の周囲に技術者が集まり、静かな緊張が漂っていた。装置は錫箔を巻いたシリンダーに振動針を押し当て、声の振動を刻み込み、再び針で読み取るという仕組みだ。
ついにその時が訪れた。エジソンは筒へ顔を近づけ、ゆっくりとこう語りかけた。
「メリーさんの羊(Mary had a little lamb)」
技術者たちが息を飲む中、ハンドルが回されると、金属的な小さな声ではあるが、確かにあの言葉が装置から響き出した。
研究所は大きなどよめきに包まれ、エジソン自身も珍しく目を見開いた表情で「人の声が戻ってきた!」と喜びを語った。ある技術者は「音が記録され、時間を越えて再び聞けるなど想像もしなかった」と興奮気味に語り、訪れていた新聞記者も「まるで魔法だ」と驚きを隠さなかった。
この“音の保存”という発明は、今後さまざまな応用が期待される。講演の記録、家族の声の保存、さらには音楽を繰り返し楽しむ未来すら想像できる。今日の成功は、通信と音楽の世界に大きな革命をもたらす可能性を秘めている。
エジソンは「改良を加え、さらに明瞭な音を目指す」と語り、装置の実用化に向けて意欲を見せた。人の声が記録されるという新時代の幕開けは、静かな冬の研究所で確かに始まった。
— RekisyNews 科学面 【1877年】
