【パリ 12月5日】
本日、パリのコンセール・パリジャンにて、若き作曲家 エクトル・ベルリオーズ による大型交響曲 「幻想交響曲(Symphonie fantastique)」 が初演された。
革新的な編成と劇的な物語性を備えた本作は、演奏終了後、会場を大きなどよめきと議論の渦に巻き込んだ。
指揮はフランソワ・アブネク氏。舞台上には巨大な編成のオーケストラが並び、ふだんの演奏会では見られない打楽器の数に、開演前から観客の間には期待と不安が入り交じっていた。
作品は、“恋に憑かれた若い芸術家の幻覚と悲劇の旅路” を描く全5楽章構成。夢想から情熱、舞踏会、野原の情景、そして「断頭台への行進」と「魔女の夜宴」と続く。演奏が進むにつれ、木管の不穏な動きや金管の異様な咆哮、弦の激しいうねりが会場を包み、聴衆の多くは息を呑んで身じろぎもできない様子だった。
特に終盤、断頭台へ引かれていく主人公を描いた“葬送の行進曲” が鳴り響くと、客席からは思わず悲鳴に近いさざめきが漏れた。続く最終楽章「魔女の夜宴」では、教会旋法をねじ曲げた旋律や鐘の音が混ざり合い、聴衆の間には驚愕と興奮が走った。
終演後、観客の反応はまさに真っ二つに割れた。
ある若い音楽家は「これは交響曲の未来を切り開く革命だ」と興奮気味に語り、保守派の紳士は「いや、これは狂気だ」と顔をしかめた。
また、批評家の一人は「こんな音楽は今まで存在しなかった。新時代が始まったのかもしれない」と述べ、別の批評家は「道徳的に問題がある」と作品の内容を非難した。
ベルリオーズ本人は、初演後に友人へ「自分の心そのものが音になった」と語ったという。彼の情熱的で破天荒な創作姿勢は、今回の初演でさらに世間の注目を集めることとなった。
本日の初演は、19世紀パリ音楽界に強烈な衝撃を与えた出来事であり、ベルリオーズという異才が本格的に台頭した瞬間と言える。
この大胆な試みが今後どのように評価されていくのか、音楽界の熱い議論は当分続きそうだ。
— RekisyNews 文化面 【1830年】
